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2016年11月17日 (木)

ネメシスとシヴァ

 前記事の「クマに会ったらどうするか」には、クマ(及びオオカミ)に関する記述はごくわずかで、岩波新書の売らんかな主義にまんまとのせられたわけですが、色々学びがありました(本書は「アンコール復刊」だったらしい)。

 実際は、「羊膜類」(地上で暮らすために必要な進化を遂げた種族、両生類を除き、今でいう爬虫類、鳥類、哺乳類を含む)の地上動物に関する著著なので、たしかに書名が「羊膜類」とか「地上動物」では売れないだろうなあ・・・。

 

 よって、お子ちゃまの大好きな恐竜も、羊膜類の重要な仲間とされるため、相当な分量で触れられている。その流れであたしも、"Jurassic Park"1993)のヴェロシラプター(ヴェロキラプトル)が、実は近隣種のデイノニクスをモデルにしていたという事実を、20年以上たった今更知った。スピルバーグが「いいねいいねそのネーミング、でもちょっと小っちゃいね!」と言ったので、名前だけ残してより大型のデイノニクス(の想像された姿)が選ばれたんだそうだ。

 もっとも新書は1987年の出版。数年後にリリースされた映画のことを著者が知っているはずはない。また略歴を見ると、出版の翌年に亡くなっているようなので、映画をご覧になる機会もなかったであろう。

 

 とはいえ、当時の恐竜研究の分野では「ほんとに爬虫類(のアナロジーで語れる)か?」、「卵で産むのか?」、「内温動物じゃないのか?」、「羽毛とか生えてないか?」、「集団で卵を守ったり、狩りしたりしないか?」、つまり「ほんとにしょぼくれた知能しかなかったのか?」というように、それまでの「定説」が次々と疑われ、ひっくりかえされていた。

 

  映画がリリースされた直後くらいに、ロンドンは大英博物館に訪れ、恐竜関係の展示を見たときも、映画(リリース時期は島国もUSも一、二か月くらいしか違いませんが、あたしはちょうどUSに住んでいた頃だったので、初日に映画館に並んで観ました)とタイアップしていたのか、今思えばヴェロシラプター(実際そう呼ばれる小型のほう)が群れ(!)の卵を集団で守っていた想像図とか、羽毛が生えてカラフルな彩りをしていた絵とか(鳥類からの連想でしょうね)、まあ、ほんまかいなというくらい、従来の恐竜のイメージを「ぶちこわし」にするような「学説」が色々展示されていた。

 

 さらには、蚊(に似た)生物の化石(映画でも、樹脂の化石である琥珀で包まれていたあれ)から、恐竜の血液(のDNA)を抽出して現代によみがえらせるというアイデアだって、そのまんま展示されていた。

 同名小説の原作者マイケル・クライトン(アメリカン)は、ただ、そういう学説をぱくって並べただけ。ドナルドなんて霞んじゃうくらい徹底した差別主義者(白人男性優位主義者)でもあったし、あたしはやつをサイファイ作家の仲間に入れたくない。

 

 もちろん恐竜のお話だけが延々と続くのであれば「恐竜」を書名にすればいいのですが、著者の専門は家畜学(比較形態学)。

 

 クマやオオカミの話もその一環ですが、途中から話題は哺乳類、そして陸上大型動物(現存しているのは主に哺乳類)に関する記述が増えていく。ちなみに、せっかく陸上にあがったのに、飽きたか、いぢめが怖かったか、あるいは「あっちにめちゃ空き地(生息空間)とか餌とかあるやん!」と思ったか、途中(何の途中かわからんけど)で海中に戻っちゃった連中もいるんですよね。

 

 爬虫類のカメならイメージもまだわかりやすいんですが、クジラとか、イルカとか、シャチがそう。水陸両用かせいぜい沿岸部に棲むアザラシ、またはマナティ(ジュゴンと似ているが違うやつ)などは、水中生活との離別が中途半端だという理由で陸上生物から除外されています。

 著者曰く、羊膜類と両生類(カエル)との決定的な違いは、「恋の季節の里帰り」(繁殖・出産時に、自分が生まれた水辺に戻ること)をやめたこと。それはひとつの革命であったといいます。両生類の卵は乾燥に耐えられない。水中生活と訣別するためには、周囲が乾燥していても安全に発育できる、羊膜の発生が必要であった。

 

 そうやって大型地上動物の話が中心になって進むのですが、最後にはまた恐竜の時代に戻る。この惑星上では、かっきり2620万年おきに生物の絶滅が起きていたという説(ラウプとセプコウスキー)が1983年に発表された。直前の絶滅は500万年ほど前。ご存じの方も多いでしょうが、「死の星」とよばれる推測上の天体(太陽の伴星)に関する話題です。

 

 太陽系は(オールトの雲と名づけられた)天体群によって球殻状に取り巻かれているという仮説があります。太陽の伴星(褐色矮星または赤色矮星と予想する説がある)が周期的にこれを攪乱させるのが原因で、地球上に数多くの彗星が到来・衝突して多くの生物を死滅させてきた、というのが「死の星」仮説。「伴星」とは二つの恒星が両者の重心を中心にして軌道運動している、つまり「連星」(双子星)の関係にあるときの暗い方の恒星。明るい方は「主星」。三連星以上も存在するといいます。

 

 この説は、本書が出版される直前の1984年に提起された説であり、今検索するとその「死の星」の名前は「ネメシス」一本になってしまっていますが、当初は「シヴァ」と呼ぶ意見もあったとのこと。

 

 ネメシスは(ペルソナ・ファンならご承知かもしれないが)、ギリシャ(グリース)神話の「神罰の女神」。人類の無礼に義憤し、恐ろしい罰を下す破壊神。命名したのは「死の星」仮説を提起した二人の物理学者(マラーとデイヴィス)。

 

 一方でシヴァという命名を主張したのは、生物学者としても科学史者としても有名だった「問題児」グールド。「死の星」仮説は、グールドが提唱していた進化の「区切り平衡説」(注)にも合致する。シヴァはご存じヒンドゥーの最高神の一柱。こちらも暴風雨を用いる破壊神とされていますが、一方では(大洪水の後に肥沃な大地が蘇るように)生命の再生も司る。またヒンドゥーでは、他の二柱である創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌとあわせて三神一体説をとりますが、それは一方的な世界の破壊だけではなく、世界の再生をも意味することから、破壊して終わり、みもふたもないネメシスより適切である、というのがグールドの意見。

 

(注)「断続平衡説」(Punctuated equilibrium)とも呼ばれ、提唱者はエルドリッジとグールド。従来のダーウィンによる「正統派」進化論では、進化は漸時的に起きるとしているのに対し、進化は短期的・爆発的に起きると唱える説。正統派の説によれば当然存在すべき、進化の中途形態の化石が存在しないこと(「ミッシング・リング」)も説明できる。もともと、中途形態などなかったのだから。

 

 本書の出版は、ちょうど「死の星」のアイデアで盛り上がっていた時期にあたり、著者もシヴァにくみするような書き方であった。また前回書いたように、本書にはご丁寧にシヴァのダンスの彫像の写真まで掲載されている。

 残念ながら、シヴァと命名するアイデアは消え去ったようで、今では「死の星」と言えば「ネメシス」ということになっている。グールドの他の多くの反権威主義的で過激な主張のように無視されて捨てられたわけではなく、単に仮説の提唱者に敬意を表した結果ということでしょうか。

(調べると、「死の星」シヴァ説は、形を変えて名前が残っているようです。こちらの説では、太陽は伴星を伴わない。周期的絶滅の原因がオールトの雲起源の数多くの彗星であることは「ネメシス」説と同じですが、太陽系が銀河平面(ディスク)を横断する際に生じる攪乱が、彗星群を揺り動かすと考えている)

 

 そして仮説の提唱から30年後、化石データーも二倍に増えた現在、「ネメシス」仮説の信憑も揺らいできているそうです。生物の絶滅がほぼ完ぺきなまでに2700万年周期で起きていることが一層明確になり(信頼区間99%)、不安定な天体の軌道ではこれは説明できない。「ネメシス」も見つかってませんしね。

 

 じゃあどうして絶滅が定期的に訪れるのか。それは謎のままということでしょうか。

 リーパーズじゃないですよ。あちらはたかだか(!)5万年周期ですし、銀河の全生命体を絶滅させるわけではない。知的生命体のみを刈り取る(収穫する)のですから。

 

 書き終わってから読み返すと、まるで「シン・ゴジラ」と「君の名は。」、評判となった二つの映画にそれぞれ(進化と彗星)ぼんやりと関係しているのが興味深い。これも一種のセレンディピティ。やっぱ書籍はAmazonでクリックして買うばっかではなく、たまにはリアルのリテールを歩くのも大事ですね。

 

 大して厚い本ではないのですが、他にも書ききれないくらい色々と、面白い「どうぶつネタ」が満載です。著者が研究対象である「動物」に愛情を抱いていないらしいことが伺えるところにも共感できる。優れた学者は研究対象を愛しない、というのはユニヴァーサルな真実と思う。真理の追究にとって「興味」は必須条件ですが、「愛」は色々と面倒ですから。

 

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コメント

うみゅ?
ここでの「メネシス」とは、「ネメシス(Nemesis)」のことですか?

 う、言われるまで気がつかなかった・・・。
 直します・・・。

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