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2016年8月21日 (日)

主語などない。(実践編)

 書きたいことは前回あらかた書いたし、実践編は面倒なんで、この際もう知らんぷりしてもいいのですが、「それについては後ほど(説明する)」は、リベラル気取りのジャーナリストの常套手段。そう言いながら決して説明しないのだ。ゼッタイに真似したくない。

 なお、「ガルパン」OPの島国語歌詞・英語訳は本記事の最後に再掲しておきます。
 また、英語訳歌詞は文の途中で切れてますけど、下では文は文として完結するように、大文字小文字、カンマ・ピリオドなど多少手直ししています。

「じれったい夢だって 最初からわかってた」
"I knew it was going to be an annoying dream from the start."


 これはいいですよね。島国語にはもちろん主語などありませんが、英語では"I"を補わないとどうしようもない。あとはストレイトフォワード。(おっと見落としていた。主語が「夢」だと思ってやっちゃうと、もうダメなんで、代わりに主語"it"で格好良くまとめてますね。状況の"it"。)

「無関心な風に 何度傷ついても」
"No matter how many times, I'm wounded by the uncaring wind(,)"

 島国語受身ではないのに、英語は受動態きましたね。自分(話し手、歌い手)が主語なので、情緒がないといけない。「傷ついた」が「傷つけられた」になっています。内容的に「迷惑の受身」の要素がはいってるからですね。"by the uncaring wind"で本当の動作主体を示している。

「太陽に手をのばす 指先のResonance」
"I'll reach my hand out towards the sun, feeling the resonance between it and my fingertips."

 まあ・・・、元の島国語どうなんだよ、と言う気もしますが、resonanceは学習英語だとここでは「共鳴・共振」ですか。たしか"Resonant Blue"はモー娘。の歌にもあったし、"Resonance"はれぼれぼの歌にもあるようだから、いわゆる最近の「それらしい」キーワード群のひとつですか。ま、「共振」じゃ、「狂信」か「強震」か、意味わかんないしね。

 「太陽に手を伸ば(そうと)している」のは話し手(歌い手)ですから、主語"I"(及び"my")を補う。ちなみに太陽にのばす手は「片手」でしょうね。島国語ではこの場合は両手を「伸ばす」とは言わない。よって"my hand"。"reach out towards"、前置詞くっついてるのは何事かと思いますけど、"reach out"は句動詞。"towards"が前置詞。

 次が難題。「共振」するのが何と何かっちゅうことですが、文意はさすがに「指先と指先」じゃないすよね。「太陽(の光?波動?)と(自分の)指先」でしょうから、英語も超苦労して、"the resonance between it (=the sun) and my fingertips."とやってますね。島国語話者はそこまで真剣には考えないんじゃないでしょうか。そもそも作詞家がそこまで考えてない気がする。よって島国語に対して非常に長い英文となった。翻訳お疲れさまです(笑)。
  

「瞬きのあいだも 感じたくて」
"I want to feel it even between a blink."

 ストレイトフォワード。betweenは上のように「二つの何かの間(by two)」を示すだけではなく、「瞬きの間」でもいけるんすね。"a blink"と単数がくっつくのは珍しい。勉強になった。

「根拠なんていつも 後付けだよ」
"You can always just make up a reason later."
 

 ここ、楽曲的にもサビ突入でテンポの変わる、個人的に好きなパートですが、話せば長くなるんですが、リベラルのジャーナリストじゃないんで、長くなっても話しますが、この"you"は、普通に主語みたいな顔していますが難物です。

 「君が」(聴き手が)じゃないんですねえ。これはあたしが最近読んでいた哲学書にも出て来た、また渡部昇一先生の英文法の本(「英文法を撫でる」(PHP文庫)にも登場した、シェークスピアの「ハムレット」に登場する「ホレイショーの哲学」問題の"your"に関連しそうです。

 著名な文法書によれば、"you"の不定用法では、一般に「人々」を指し、「誰であっても人は」とするようにとのことです。"You can't make an omelet without breaking eggs."などのように、諺に多くあります。が、後ほど説明する(するから!)"your"の例に倣って、次のように訳し戻すのがいいと思う。すなわち、

 「世間で言ってる根拠なんつうものは、全部後からでっちあげてんだよ」

が正解でしょう。

 いや、信じてくれ! うそじゃない! トラスト・ミー!
 「世間で」と「なんつうもの」がミソ。

 では噂の、「ハムレット」(第一幕、第五場)の一節(渡部先生の前掲書から引用)。

 "There are more things in heaven and earth, Horatio,
    Than are dreamt of in your philosophy."

 普通は「ホレイシオよ、天と地には『君の哲学』の中で夢想される以上のことがあるんだ」とやっちゃうでしょう。「ホレイシオの哲学」と思っちゃいますかね。
 「間違い」なんですって。
 前掲書から坪内逍遥訳。
「この天地の間にはな、所謂(いわゆる)哲学の思ひも及ばぬ大事があるわい」
 さらに、あたしの手元にある、福田恆存訳(新潮文庫)。
「ホレイショー、この天地のあいだには、人智の思いも及ばぬことが幾らもあるのだ」

 渡部先生曰く、坪内訳は「当時としては驚くべき正確な訳」であるそうだし、福田訳は「人智」と意訳されていますが、あくまで「世の中全般」のことを指してますよね。ただし、世のシェークスピア研究の成果を踏まえて、渡部先生は次のように訳すべきだとしています。

「ホレイシオ君よ、天地の間には、哲学『なんちゅうもの』では夢想もできないことがあるんだぜ」

 つまり、「なんつうの、哲学ってやつ? あれはだめよ」という、(1)聴き手に対する親しみと、(2)(一般には評価・称賛されているはずの)話題の対象に対する侮蔑のニュアンス、がないといけない。この"your"(難しい用語で心情的属格または感興属格)は、一旦気が付けば、普段目にする英語にも、いろんなところに登場しますね。

 渡部先生の前掲書にもいくつか例が載っていますが、著名な文法書だとこんな例が載っています。

"If this is your famous French cooking, I don't think much of it!"
「これが、かの有名なフランス料理ちゅうもんなら、どーってこたねえな!」
 
 余談(多いな!)。

 かの島国のプライム・ミニスター小泉が、2005年の英国グレンイーグルズ・サミットに出席した際の話。事前にフレンチのシラクが、ロシアンのプーチン、ジャーマンのシュレイダーに、「料理のまずい国の奴らは信用できねえ」と陰口を叩いていたことが問題になっていたそうな。明らかにブリティッシュ料理を侮辱するエスニック・ジョークであった。

 さて、あちらの島国のPMブレアによれば、こちらの島国のPM小泉は、晩餐会で一口料理を食べた途端、「ヘイ、ジャック(シラク)! このブリティッシュ料理、素晴らしいな!」と褒めちぎったんだそうな。シラクが苦虫をかみつぶしたような顔になったのは言うまでもない(笑)。

 ついにシラクが、「あたしは実はあんなことは言っていない」と釈明したのだが、今度は事情をご存じなかったエリザベス女王陛下が「何のお話ですって?」とお尋ねになり、惨めにもシラクは、一から顛末を話す羽目になった。その間も、PM小泉が執拗に「いや、料理がうまい、素晴らしい」と繰り返したので、PMブレアは、そのうちシラクが護衛の副官の銃を奪って、PM小泉を撃ってしまうのではないかと思ったそうだ(笑)。

 余談おしまい(長いな!)。

 そして渡部先生がこのネタのきっかけとしているし、別な哲学史の本にも例示されていますが、かつて明治時代、当時の島国の「哲学」に対するイメージをどん底まで貶めた、ある一高生(今で言う東大生)の自殺事件がありました。「哲学」に煩悶したが故に、華厳の滝に投身したという、あまりに斬新なその理由のため島国中で話題となり、世間の親たちは、哲学を目指したいという子弟のことを、「自殺するからダメ」と口を揃えてはねつけたといいます。

 ところが本人はその遺書で、まさに上の台詞の部分を、「ホレーショの哲學つひに何等のオーソリテーを價(あたい)するものぞ」と「誤訳」していた。もし彼が「正しく」翻訳・解釈していれば、たかが哲学、鼻で笑って生き続けたかもしれないのだそうです。

 予告通り長くなりましたが、軌道を元に戻します。
 だから、この英語訳は島国語歌詞の意味を「完璧に」反映しているんだと思います。英語って、こういう警句的な表現が大得意なんでしょうね。

「大人ぶった予防線 飛び越えて今 Bright way」
Now that you're over trying to act like an adult to protect yourself, you're going bright way.

 ここもご苦労なこってすねえ。島国語もきついけど。
 訳自体はストレイトフォワードですけど、長くなっちゃいますよね。島国語に訳し戻すと、なんかこなれていない文章になっちゃいますけど。意訳入ってます。

「保身ばかりの大人みたいに振る舞おうとするのはもうやめたんでしょ(踏み越えたんでしょ)、これからはブライト・ウェイ(和製英語なんで意味はよく知りません)を進むんだよ」

 この"you"はふつうに話し手(歌い手)が語りかけている聴き手ですね。「根拠なんて後からついてくるよ、縮こまってることやめにしたんだから、いっそ飛び出そうよ!」でしょうか。"now that"は、「今や、ナントカだから」とか「ナントカしたからには」だそうな。緩い繋ぎですね。

「踏み出した空に 走っていく光 一番先へ 目覚めるスピードで」
"The rays of light race forth, having made their way into the sky, racing off to be first  at a speed that wakes you up."

 さあ、主語がすり替わりました(笑)。つか島国語主語ないけど、「踏み出した」のは歌い手ですよねえ。ここもなんつうか、フィーリングてんこ盛りですよねえ。
 英語では"the rays of light"「いくつもの光の筋」が主語になって、ちゃんと"race (forth)"と動詞もくっついていて、なんとか島国語のニュアンスを伝えようとしているのですが、なにしろ島国語自体が何言ってるか良く分かんない(笑)。直訳で戻してみると・・・。

 「いくつもの光の筋が突き進む、目指す空に辿りつき、先を争って飛び去っていく、君が目覚めるくらいのスピードで」

 ご苦労様です!

「破れそうな鼓動 連れていくんだ  もっと強い 可能性になれ」
"My heart can't keep beating this fast as it pulls me along, making all of this more likely to happen."

 ここも主語すり替わり。いや島国語主語ないとしても、「連れて行く」のは「自分」(話し手)ですよね。「あたしが鼓動を(打っている心臓ちゃんを)連れて行く」
 ところが、英語では「あたしの心臓」が主語。そして「心臓があたしを連れて行く」。

 さらに言えば、「あたしの心臓ちゃんが、あたしを引っ張っていくんだけど、心臓ちゃんの鼓動はこんなに早く打ち続けていられそうにない。ところで、なんで心臓ちゃんがあたしを連れていくかっていうと、結果?(勝利? 成長?)をさらに間違いなく掴むためなんだけどね」
 
 それで間違いないと思いますが、格好良くやれば、「進むにつれて、心臓がもう張り裂けそうなくらい激しく打ってるけど、勝利を確実にするために頑張らなくちゃ!」かな。

 以上ですが。 

 なぞってみると、かなり良心的な(まじめな)訳ですよね。島国語に忠実なんて決して言いませんけど(つか、島国語自由すぎ)、相当まめに追っかけている。頭が下がります。

 主語などない島国語を、主語(と動詞)がないとダメな英語にする苦労、良く分かると思います。手を変え、品を変え、最後はついに心臓ちゃんが主語になっちゃいましたね(笑)。 
 人だろうが、ものだろうが、形而上の概念だろうが、"it"だろうが、なんだろうが主語を務めることができるのが、英語のすごいところです。

 もちろん、島国語だって、「あたしについて言えば」、「あたしの心臓について言えば」、「あたしの勝利(成長)について言えば」で、融通無碍になんでも「主題」にできるし、"it"いらないし、いい勝負ですかね。

*** 

I just feel my wind
I just feel my shine
Rise & ride into the sky

I knew it was going to be
An annoying dream from the start

No matter how many times
I'm wounded by the uncaring wind

I'll reach my hand out towards the sun
Feeling the resonance between it and my fingertips
I want to feel it, even between a blink

You can always just make up a reason later
Now that you're over trying to act like an adult to protect yourself
You're going bright way

The rays of light race forth
Having made their way into the sky
Racing off to be first, at a speed that wakes you up

My heart can't keep beating this fast as it pulls me along
Making all of this more likely to happen
Rise to my feet!!

***

I just feel my wind
I just feel my shine
空に rise & ride

じれったい夢だって 最初からわかってた
無関心な風に 何度傷ついても
太陽に手をのばす 指先のResonance
瞬きのあいだも 感じたくて

根拠なんていつも 後付けだよ
大人ぶった予防線 飛び越えて今 Bright way

踏み出した空に 走っていく光
一番先へ 目覚めるスピードで
破れそうな鼓動 連れていくんだ
もっと強い 可能性になれ
Rise to my feet!!

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